もうひとつの大相撲 beyond2020場所開催

47文P編集部
土俵脇に手話通訳者が立ち、案内表示用のモニターも設置された大相撲beyond2020場所=4日、東京・両国国技館土俵脇に手話通訳者が立ち、案内表示用のモニターも設置された大相撲beyond2020場所=4日、東京・両国国技館

 2020年東京オリンピック・パラリンピックの機運醸成の文化プログラムとして、外国人と障害者を招いたイベント「大相撲beyond2020場所」が4日、東京・両国国技館で開かれた。土俵脇に手話通訳者が立って決まり手を説明したり、場内アナウンスを増やしたり、障害にかかわらず平等に生活できる社会にするためのノーマライゼーションの取り組みが試された。そのなかで感動を湧き起こしたのが、目が見えず耳が聞こえない盲(もう)ろう者と、手話などによる通訳者が土俵上の取組を客席で再現した、笑顔あふれる「もうひとつの大相撲」だった。
 盲ろう者は川崎美知夫さん67歳。幼いころから耳が不自由で、30代の時に仕事中の事故が原因で失明した。もともと大相撲の大ファンだったが、盲ろうで見ることも聞くこともできなくなり、大相撲の観戦をあきらめていた。beyond2020場所では通訳者2人(添泉初美さん、龍原尚美さん)とともに招待され、数十年ぶりの復活になった。
 盲ろう者のためには、通訳者と手を触れ合って指や手の動きでコミュニケーションする「触手話」などが用いられる。広さ約1畳分のます席で川崎さんは土俵に背を向けて座り、輪をつくるように両手をつないで向き合った通訳者1人が取組の様子を触手話で伝えるのだが、その手法が力士の動きの再現そのもの。押し出しなら手を開いて胸の前に差し出し、力士がマワシを取ったなら、通訳者が川崎さんのズボンのベルトをつかむ。突っ張りの場面で、両頬を両手で押し上げられた川崎さんは、ニコニコ顔で「突っ張ったの?」「勝ったの?」などと確認する。その楽しそうな様子と言ったら―。
 全ての"取組"を終えた川崎さんは「おかげで大相撲がもっと好きになりました」と話した。見るだけより、だれかと相撲をしながら、あるいは真似ながら観戦する方がわくわくすることを教えてくれた場所だった。「大相撲文化はみんなで楽しむもの」という原点に気づかせてくれるような文化プログラムへの期待が高まっている。