斬新な能の舞台が実現 日本・ブラジルのコラボ ブラジル民衆詩「コルデル文学」を題材にした現代能「地獄の門を叩く男」の公演が、東京都江東区のパナソ...
共同通信ブラジル民衆詩「コルデル文学」を題材にした現代能「地獄の門を叩く男」の公演が、東京都江東区のパナソニックセンターで開かれた。2016年にリオデジャネイロで開催されたオリンピック・パラリンピックと来年の東京大会をつなげ、両国の伝統文化の交流を促進しようという企画。斬新な舞台に、称賛の声が上がった。
ブラジル伝統のコルデル文学は恋愛から英雄、社会風刺などさまざまテーマがあり、ランピオンという盗賊の物語は特に人気。20世紀の詩人ジョゼ・パシェコが著した「ランピオンの地獄訪問」が今回の現代能の原作になった。
悪事の末に処刑されたランピオンは、地獄入りをサタンに拒まれる。黄金色の能衣装をまとった梅若猶彦演じるランピオンは、「悪人の自分がどうして地獄に行けないのか!」とばかりに戸惑いつつ怒り、ついに地獄を焼き払う。その抑制された端正な舞いが、盗賊の激しく憤怒する心中を伝える。
〝静〟の能に対し、ランピオンと対するサタンの兵士たちは〝動〟で応じる。空手家の中町美希、ブラジル格闘技「カポエリスタ」の森陽子が登場し、突きや蹴りといった攻撃の型を軽やかに演武する。お囃子は、サンバのリズム楽器の演奏。最後はびっくり「Opa(オーパ)!」(ブラジルの言葉で「あらまあ」といった意味)、笑みがこぼれる大団円を迎える。
そもそも灼熱の地獄という舞台設定に対して、それを焼き尽くす行動がかなりずれている。まじめに拒絶するサタンは、ランピオンが義賊であると考えたのか。登場者の認識や思惑、理解のずれに加え、静と動のコントラスト、日本とブラジルの文化の違いも加わり、伝統ならではの同調圧力がゼロの、不思議にずれまくりが楽しい能舞台になった。
舞台装置として最新鋭のプロジェクターが使われ、光と影が織りなす幽玄の世界をつくり出した。そこは、芸術のあらゆるやんちゃが許される遊戯場のよう。「個性のハーモニーが面白かった」とは、主催したブラジル大使館の関係者の評。ずれを多様性として生かしたまま、対話ややりとりを丁寧に続ければ、かくも喜ばしい時間芸術が生まれることを演出・脚本の梅若ソラヤは実証した。観客から祝福の拍手が出演者やスタッフに、両国の観客同士でも浴びせかけられた。(共同通信=小池真一)
(「地獄の門を叩く男」は11月23、24日に公演された)