発信すべき自画像とは? 日本文化を政府がPR  五輪はスポーツだけでなく、文化の祭典とも言われる。政府は、日本文化を国内外でPRするキャンペーン「...

共同通信

 五輪はスポーツだけでなく、文化の祭典とも言われる。政府は、日本文化を国内外でPRするキャンペーン「日本博」を「大型国家プロジェクト」と位置づけ、展開。訪日客の増加につなぐ狙いもあるが、一方で「内向き」「空虚」との批判もある。自国文化の紹介は自画像を描くようなもの。その像は「現在」を反映しているのだろうか。
 ▽絶好のチャンス
 「(日本の)文化をもっとすごいよねって言う絶好のチャンスが来た」。3月、国立劇場(東京)で開催された日本博の「旗揚げ式」で宮田亮平文化庁長官は胸を張った。
 総合テーマに「日本人と自然」を掲げる国内での日本博に先駆けて、昨年夏から今年冬にかけ、フランスで開かれたのが「ジャポニスム2018」だ。歌舞伎から現代アート、食まで多方面の文化について、約100の公式企画を実施した。
 だが「ジャポニスム」とはそもそも、19世紀の欧米で起きた日本美術ブームのこと。フランス側は定義済みの言葉を使うことに難色を示し、「多様な日本を見せる」との趣旨でフランス語表記を複数形にすることで落ち着いた経緯がある。
 ▽批評的な態度
 ジャポニスムに参加した劇作家岡田利規さんも、「西洋がまなざす日本」を意識したこのイベントに違和感があったという。日本を舞台にした代表作の公演を打診されたが、「日本を『推す』だけではクールじゃない」と、当時制作していた、バンコクに暮らす芸術家の性愛と政治的動乱をタイ語で描く作品も提案し、公演にこぎ着けた。
 「タイは国家と国民の緊張関係がとても高い。それは今、多かれ少なかれどこにでもあり、タイの人でなくても自分たちのこととして考えてもらえると思った」。作品を通じて、ジャポニスムへの批評的態度も示した。
 政府の思惑をよそに、観客の反応は普段の公演と変わらなかったと岡田さん。自身の限られた見方と断った上で「ジャポニスムは、日本で報じられるために機能していたのではないか。『すごい』文化を持つフランスが、日本の文化を褒めたたえている情報を日本人が知れば、いい気分になるということですよね」。実際、報道はフランスが約2千件、日本は約9千件と圧倒的に多かった。
 ▽心と向き合う
 「発信すべき自己像が定まっていない」と語るのは、美術批評家黒瀬陽平さんだ。例えば、五輪に続く大阪万博のテーマは超高齢化社会の健康と医療。「アイロニーなら分かるが、こういう社会を招いたのは明らかに政策の失敗なのに、課題を直視していない」
 東日本大震災の関連企画も、日本博の現状の案では、ほんの一部。震災や原発事故の現実や課題に目をつぶり「五輪や万博を使って『もう震災後ではない』という既成事実を作ろうとしている。それに祝祭的な雰囲気の文化イベントを利用している」とも指摘する。
 黒瀬さんは今秋、日本の芸術作品や文化が、災禍とその慰霊をどう表現してきたかを再考する美術展を東京で企画している。復興とは、防潮堤ができ、仮設住宅に暮らす人が減ることではなく、「被災地の共同体の心とどう向き合うか、見つめる必要がある」。
 "祭り"の後、この国がたどるかもしれない暗い道を予感する人は少なくない。無理をして笑顔を作ってはいないか。私たちは今のうちに鏡を見据えるべきだろう。(共同通信=前山千尋)