芸大で福祉を学ぶ 高齢者、アート通じ対話  芸術大学が高齢者施設で活躍できる人材を育成したり、障害者施設が芸術専攻の学生を呼び込んだりする取り...

共同通信
有料老人ホームで、高齢者と一緒に転倒予防の体操をする荒川弘憲さん(左)=2017年8月、東京都内有料老人ホームで、高齢者と一緒に転倒予防の体操をする荒川弘憲さん(左)=2017年8月、東京都内

 芸術大学が高齢者施設で活躍できる人材を育成したり、障害者施設が芸術専攻の学生を呼び込んだりする取り組みが始まっている。アートの創造性や対話を引き出す力を福祉の現場で生かすのが狙いで、今後、活発になりそうだ。
 2017年8月、都内の介護付き有料老人ホームで、東京芸大の授業の一環として体験実習が行われた。転倒予防の体操をする高齢者の輪に、東京芸大1年の荒川弘憲さん(24)も加わった。「アートで地域のコミュニティーを復活させる活動に興味があって参加した」という。
 芸大は4月、アートと福祉をテーマに在学生と社会人を対象にする講座を立ち上げた。統括するのは美術学部長でアーティストの日比野克彦さん。福祉の成り立ちやアーティストと社会の関わりなどを学ぶほか、施設でのプログラムも企画。作品づくりを目指すのではなく、高齢者や障害者などコミュニティーから排除されやすい人の個性を尊重しながら社会とつなげる力を養う。
 開講に結び付いた取り組みの一つが、日比野さんが12年から関わる「とびらプロジェクト」。芸大と連携する東京都美術館を拠点に、人と作品、人と人とが出会える場をつくる人材を育ててきた。
 5月の講義では、なるべく言葉を使わずに白い模造紙1枚とペンといった物だけで、上野公園で初めて会った人との交流を試みるなど、ユニークな授業内容も特徴だ。
 受講者約80人のうち、半数以上が社会人。都内の介護施設で働く女性(37)は、仕事に閉塞感を感じて申し込んだ。「同じ事を繰り返す認知症の人を尊重したくても難しい。楽しく働けるように視点を変えたかった」
 芸大と組んで実習先を提供するのは、約300の有料老人ホームを手掛けるSOMPOホールディングス。試行的に実施したプログラムでは、雪の結晶をイメージした作品を作り、冬の思い出を語り合った。参加者の個性が表れ、会話が弾み、入所者のコミュニケーションの活性化にもつながったという。
 一方、福祉業界からも芸大生を求める動きがある。沖縄県立芸大(那覇市)では11月、障害者支援をする4法人の合同企業説明会を初めて実施。デザインや音楽専攻の学生7人が参加した。
 説明会を企画したフクシワークスオキナワの新垣潤一さん(30)によると、施設側は、スキルを障害者が制作・販売する製品などに生かしてほしいといった思いもある。「多様な人材を求める施設がある一方で、学んだことを生かせずに就職する芸大生もいる。チャレンジの場が広がる」と新垣さん。学生からは好評で、今後も芸大で説明会を続けたい考えだ。
 日比野さんは「老いや障害は欠落したものと考えがちだが、アートでは特性や個性と見る。多様性のある社会を実現するための、つなぎ役になるのではないか」と話す。