「二つ目」を見る楽しみ (企画広告) 「この女優さん、アイドルという殻を破って、持ち前の表現力でスケールが大きくなったね」―。気になった...
共同通信 「この女優さん、アイドルという殻を破って、持ち前の表現力でスケールが大きくなったね」―。気になった芸能人やスポーツ選手の変化を見守り、成長を喜ぶ。同時代を共に生きた人にしか得られない体験でしょう。
それは特別なこと、と思っているあなたに伝えたい。チャンスは意外なところに、そう、伝統芸能の世界にも潜んでいるのです。「前座」を終え、晴れて「真打ち」となるまでの、「二つ目」という時期の落語家、講談師に注目してみてはどうでしょうか?
入門を許された〝たまご〟たちは、師匠の元で心構えを学び、稽古を受け、そして高座の座布団をひっくり返すなど、数多くの下働きをこなす―。この段階が前座です。
4、5年を過ごし、周囲に認められると、めでたく二つ目になります。見た目で分かる大きな変化が「羽織を着て高座に上がれる」ことです。
「下働き」からも解放されます。自由度は増しますが、反比例するように、寄席での仕事、出番は激減します。しゃべる機会は、落語会を開くなどして自分でつかまなければ。分かっていても酒、たばこも思いのままとなれば、たがが外れる危険性も。しかも、ごちそうになり、小遣いももらえた前座時代と比べて、二つ目は面倒を見る立場となって懐も寂しく...。
ですが、10年前後に及ぶ真打ちへの準備期間に、彼らもただ手をこまぬいているわけではありません。少しでも腕を、個性を磨こうと懸命な二つ目に、光の当たる機会が増えてきています。
落語芸術協会の若手落語家、講談師でつくるユニット「成金」、ライバルの落語協会では、1984年生まれの二つ目が結成した「ハチヨン」などの活動が話題を呼び、そしてベテランの古今亭志ん輔師匠が二つ目の鍛錬の場として立ち上げた「神田連雀亭」も根付いてきました。
イケメン目当ての若い女性客もいるようですが、演者の多くは30~40代で、世間的には働き盛り。そんな彼らが自らの道を追い求め、ひたむきに客席に語り掛ける姿に共感し、目が離せなくなった同世代が、実は二つ目人気を支えているのかもしれません。
ほかにも、相模原市の「さがみはら若手落語家選手権」、東京都北区の「北とぴあ若手落語家競演会」など、二つ目対象の催しが定着を見せています。脚光を浴びる場を作るとともに、新たなファンを掘り起こして裾野を広げ、地域の活性化にもつなげる―。一石三鳥を実現させてきました。
その流れに連なるのが、7月28日スタートの「日本橋高島屋亭」です。老舗百貨店にふさわしく、日本文化の魅力を発信することを大きな目的としています。
第1回の出演者は、「成金」から桂宮治さん、柳亭小痴楽さん(以上落語)、神田松之丞さん(講談)、落語協会から入船亭小辰(落語)さんと、「連雀亭」でしのぎを削る精鋭たち。
宮治さんは、汗だくの熱演でお客さんの目をくぎ付けにする爆笑派。いわゆる二世落語家の小痴楽さんは切れの良い語り口が魅力で、松之丞さんは講談独特のリズムで話を運びながら、笑いもたっぷり。そして小辰さんは、張りのある声、端正で愛嬌も感じさせる高座が特色。落語、講談の多様性、可能性を感じさせてくれる顔ぶれです。
確かに彼らは未完成です。でも彼らは高座で戦っています。戦いながら何かをつかんで、少しずつ、または一気に変化を遂げる。そうした過程、成果を客席から目撃する機会もたまには、いえ度々巡ってくるかもしれないのです。実際、ある若手真打ちが二つ目の頃、一席演じるのを舞台の袖で見ていた人気真打ちが「彼、何か変わったね」と、つぶやいたのを聞いたこともありました。
将来、一枚看板となった彼らを見ながら「二つ目の時から知ってるよ。あの頃はやる気が空回りしててね」などと、実体験として語れる日が来たら...。そう考えただけで、明るい希望が湧いてきそうな気がしませんか?