家・くらしから始めよう(東京2020公認プログラム) 特別企画展「文化のちから」 10/18~12/4 パナソニックセンター東京

47文P編集部

 「文化」をテーマにした展覧会は数多いが、静物を陳列するだけの例が少なくない。気が利いているのが「こと」を見せる展示。最良は、文化を担う「ひと」を実感させることかも。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の公認の文化プログラムとして、東京・有明のパナソニックセンター東京で開催の特別企画展「文化のちから」は来場者に、それぞれのかけがえのない「文化のひと」に会わせてくれる時空間でもある。

 ▽手本として披露
 「くらしを彩る、ニッポンの美意識」をテーマにする本展は、20年東京大会まで全国各地で実施される大会組織委員会公認の文化プログラム「文化オリンピアード」の開幕を告げる企画の一つだ。それ以上に、国際オリンピック委員会(IOC)の最上級ランクの公式スポンサーで、2012年ロンドン大会や今回のリオデジャネイロ大会でも、出色の文化プログラムを成功させてきたパナソニックが、どのような手本を披露してくれるのか、期待は高まるばかり。
 そこで、世界的な家電メーカーが20年東京大会に向けた文化オリンピアードのテーマにしたのが衣食住、つまり「家」のなかの営み。そこに光を当てるのに「電」、最新のデジタル技術を駆使する。浮かび上がってくるのが、わたしたちが大切に継いできた日本的な美意識、美しさの感性だ。

 ▽想起させるもの
 会場で来場者を出迎えるのが、「日本の紋」のコーナー。20年東京大会の公式エンブレムでもおなじみの市松をはじめ青海波、千鳥などの紋様が、神殿の柱のように屹立する帯状スクリーンに投影される。お隣の「装う」コーナーでは、振り袖や小紋など16種類の和服の格式と季節に合わせたデザインが、プロジェクションマッピングで再現されている。「あの柄の着物を母が持っていたな」などと来場者は想起しようというもの。
 「日本の色」コーナーは、10畳ほどの広さの筒状の空間にぐるりと並べられた大型モニターに、さまざまな色を映し出す。例えば、空間の真ん中に置かれた操作盤に向かって「ふじいろ」と声にすれば、淡い紫色の藤色で室内は染め上げられる。「あかねいろ」を呼び出せば、それが夕日の色であることを家族に教えてもらった記憶をよみがえらせる人も少なくないだろう。

 ▽幸せなひととき
 節分や七夕、十五夜など12の季節のしつらい(室礼)が集められた「しつらう」コーナーは、懐かしさのオンパレード。お釈迦様の誕生日を祝う花祭りのしつらい展示の前に立つと、桜の花びらが舞うのどかなアニメーションが登場する。端午の節句であれば、コイの絵が元気よく泳ぎ出し、それぞれが家族との幸せなひとときと直結している。
 「味わう」コーナーでは、四季それぞれの旬の料理を選択肢から選んで遊ぶ。「春の料理は?」という質問で、何が正解か脳内で問い合わせた相手は他界した祖母ら家族だったりする。「何かを展示する展示会にはしたくなかった」と本展企画者の那須瑞紀さんは話してくれたが、来場者が見るのは、展示物ひとつひとつを「美しい」と感受できる感性、美意識という文化をわが家で育んでくれた家族、「文化のひと」の姿なのかもしれない。

 ▽最初の社会は家族 
 文化プログラムは社会的課題に向き合う文化の取り組みだが、「文化のちから」展は個人が出合う最初の社会である家族を対象にする。しかも、懐かしさや感謝という温かな気持ちを来場者に誘発させながら。会場に大切に掲げられた写真の中の同社創業者松下幸之助さんは、みんなの暮らしをより豊かにすることを社是にしたが、21世紀の世界最高水準の文化プログラムでもそれはしっかりと生きている。